ネット上で誹謗中傷した場合の法的責任と実際のネット誹謗中傷事件例

SNSやインターネット掲示板など、匿名で投稿できるネット上の世界だと、ついどうしても気が大きくなってしまい、相手を攻撃するような投稿をしてしまう人が多いです。

 

「匿名だからどうせバレないだろう」「たかがネット上の書き込み」と油断して誹謗中傷のような投稿をしてしまうと、相手から訴えられてしまう可能性もあります。

 

たとえ匿名であっても「発信者情報開示請求」という手続きを正式に取っていけば、IPアドレスなどの情報からどこの誰がその投稿をしたのか特定することができてしまいます。

 

そして、投稿した内容や被害の状況によっては、刑罰を受けたり損害賠償金を支払ったりなどの責任が発生する可能性が出てきます。

 

今回は、最近社会問題ともなりつつあるネット上の誹謗中傷について、具体的にどのような法的責任が発生するのか、これまでにあった実際の事件例にはどのようなものがあるのかについて詳しく解説していきます。

 

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「匿名だから」と思って言いたい放題書き込んでいたら・・・

インターネットは、「相手の顔が見えない」「直接相手とコミュニケーションをとっている感覚が薄い」「匿名性である」という特徴から、他人に対して誹謗中傷とも取れるような書き込みや投稿をしてしまうハードルが非常に低い世界と言えます。

 

実際、あまり好きではない知り合いや、嫌な別れ方をした元恋人、個人的な感情から好感が持てない芸能人に関してSNSやネットの掲示板などでついつい誹謗中傷を書き込んでしまった経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

しかし、「匿名だから」と安心してインターネットで言いたい放題書き込んでいたら、ある日突然被害者から訴えられてしまうということもあり得るのです。

 

なぜなら、インターネットでの匿名の書き込みも特定が可能な世界になっているからです。現在では、発信者情報開示請求という手続きによって書き込みをした人のIPアドレスを特定することができ、そこからプロバイダを特定して問い合わせをすることで、契約者である誹謗中傷の加害者の氏名・住所・電話番号などが割り出せるようになっているのです。

 

つまり、匿名だと思って軽い気持ちで書き込んだ誹謗中傷も、厳密には匿名ではなく、法的責任を追及される可能性があるのです。

 

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そもそも「誹謗中傷」の定義とは

ネット上のトラブルが社会問題として多くの人に関係のあるものになったことで、「誹謗中傷」というワードを耳にする機会も増えましたよね。ではそもそも「誹謗中傷」とはどのような意味をもつのでしょうか?

 

「誹謗中傷」とは、一般的に「事実ではない嘘やデマを言いふらして他人を悪く言って陥れ、他人の名誉を傷つける行為」と解釈することができます。

 

誹謗中傷を法的な問題として扱うには「悪く言う」だけでは不十分で「権利や名誉を侵害しているか」という角度も重要です。

 

他人に関する嘘やデマ言って他人の名誉を傷つけるというのは、ネット上においては不特定多数の人が閲覧できるため、相手のプライバシーや社会的・経済的な評価などの権利を侵害するという結果が生まれやすいです。そのため、ネット上での誹謗中傷は法的責任を問いやすいとも言えます。

 

ただ、誹謗中傷は「批判」や「非難」と区別がつきにくいという点もあります。以下でそれらとの違いを見ていきましょう。

 

誹謗中傷と「批判」の違い

誹謗中傷とごちゃごちゃになりやすいものとして「批判」がありますが、「批判」は、相手の意見や主張、行いなどの誤りについて根拠を示しながら論理的に指摘し、さらに改善を求めるような行為を指しますので誹謗中傷とは異なります。

 

批判はある意味、建設的な論争なども含まれますので、誹謗中傷と比べるとネガティブな意味合いが薄くなります。

 

誹謗中傷と「非難」の違い

批判と同様、誹謗中傷と区別がつきにくいものとして「非難」があります。「非難」とは、他人の失敗や欠点などを指摘して責める行為と言えます。責める内容が根拠にもとづいていたとしても攻撃的な意味合いが強くなるため、非難は相手とのトラブルに発展しやすいです。

 

誹謗中傷との明確な境界線があるとは言い切れませんが、ある程度の根拠があるのが非難、根拠が明確でないことが多いのが誹謗中傷とおおむね分けることができるでしょう。

 

ネットで誹謗中傷した場合の刑事上の法的責任

ここからは、ネット上で誹謗中傷を行った場合にどのような法的責任を追及される可能性があるのかを見ていきます。

 

名誉毀損罪

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、他人の名誉を毀損した場合に成立する罪です。

 

「公然と」というのは、不特定多数の人たちが認識しうる状態をいいますので、インターネットやSNSなどで誰もが閲覧できる場所に書き込む行為は、公然性が認められます。

 

「事実を摘示し」というのは、他人の名誉を害するような事実を示すことです。この場合の「事実」というのは真実か嘘かは関係ありません。ネット上の書き込みによって他人の社会的評価を低下させていれば名誉毀損罪が成立することになります。

 

名誉毀損罪になるものとして具体例を挙げれば、ネット掲示板に、「A会社の●●部長は部下の〇〇さんと不倫している」と書き込む行為や、SNSに「B会社の経営者の〇〇さんは昔人を殺したことがある前科持ちだからあそこの会社とは関わらないほうがいい」などと書き込む行為が名誉毀損に当たります。

 

名誉毀損罪と判断されれば3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金が科せられます。

 

侮辱罪

誹謗中傷の書き込みが名誉毀損とならない場合でも、侮辱罪になる可能性があります。侮辱罪は事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に成立する罪です。

 

名誉毀損罪と同様「公然と」というキーワードがありますが、ネット上の書き込みは不特定多数の人が閲覧できますので、ほとんどがこの要件を満たします。侮辱罪の場合は名誉毀損罪と違い、「事実の摘示」がない場合でも成立します。

 

例えば「ブス」「バカ」「デブ」などの抽象的な表現で他人を貶めた場合に侮辱罪が成立する可能性があります。

 

侮辱罪が立件されることはこれまでほとんどありませんでしたが、近年はネット上の誹謗中傷が侮辱罪として刑事事件となる事例が増えていて、誹謗中傷トラブルの抑止につながると期待されています。

 

侮辱罪が成立すれば、1年以下の懲役もしくは禁錮、もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料となります。

 

信用毀損罪

信用毀損罪は、個人や法人の経済的信用や社会的評価を低下させ、その業務を妨害したと判断された場合に成立する犯罪です。

 

例で言えば「〇〇店のスープはマズい。ゴキブリでも入っているのではないか」などとネット上やSNSで書き込んだ場合に信用毀損罪となる可能性があります。

 

実際に自分でお店を経営している方などはおわかりいただきやすいかと思いますが、ネット上にこのような書き込みや口コミを書かれてしまうと店への経済的ダメージは計り知れず、経営悪化を招く恐れがあります。

 

信用毀損罪となれば、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。

 

脅迫罪

ネット上の書き込みの内容によっては脅迫罪に該当する可能性もあります。

 

脅迫罪は他人や他人の家族の生命、身体、自由、名誉、財産などに対して害を加えると告知して人を脅迫した場合に成立します。

 

ネット掲示板での書き込みやLINETwitterのダイレクトメッセージなどで「殺してやる」「家に火をつけてやる」「子供を誘拐する」などと送った場合、脅迫罪に問われる可能性があります。

 

脅迫罪となったら2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。

 

ネットで誹謗中傷した場合の民事上の法的責任

先ほどの章では、法的責任の中でも刑事上の罪について見てきましたが、ここでは民事上の法的責任についても確認していきましょう。

 

プライバシー侵害

ネット掲示板やSNSなどで本人に無断で個人情報を晒してしまうと、プライバシー侵害として訴えられる可能性があります。

 

個人情報とは本名、電話番号、住所、マイナンバー、既往歴、犯罪歴などです。これらの個人情報が勝手に晒されてしまうと、それが悪用されて詐欺被害やストーカー被害などの犯罪に巻き込まれる可能性がありますので、被害者の方たちも犯人特定に力を入れる傾向にあります。

 

肖像権侵害

SNSやネット上に無断で他人の顔写真などを公開してしまうと肖像権侵害となる可能性があります。嫌がらせや相手を攻撃するという目的でなくても、勝手に顔写真を公開された場合に相手を訴える人もいますので、軽い気持ちで他人の顔写真を公開することは危険なのです。

 

また、嫌がらせや攻撃する目的で写真を公開する際、ヌード写真などを公開してしまうと通常の顔写真の公開よりも損害賠償金がかなり高額になってしまう可能性があります。

 

著作権侵害

ネットにおける誹謗中傷問題では、著作権侵害も問題になっています。他人が創作したアニメや動画、他人が撮影した画像などを勝手にネット上に公開すると著作権侵害で訴えられる可能性があります。

 

なお、著作権法には、罰則条項が設けられていて、懲役刑や罰金刑も用意されていますので、刑事としても民事上の賠償金請求としても責任を問われる可能性が高くなります。

 

損害賠償請求

プライバシー侵害や肖像権侵害など民事上の問題として訴えられた場合、かなりの確率で損害賠償請求を受けるでしょう。

 

ネット上の誹謗中傷の書き込みによってどれほどの経済的被害を受けたのか、どれほどの精神的苦痛を受けたのかで賠償金の金額が変わってきます。

 

なお、企業や法人に対して誹謗中傷を行いその結果経済的被害が大きくなった場合や、ヌード写真を勝手に公開してプライバシー侵害となった場合などは、請求される賠償金の金額が多額になる傾向にあります。

 

これまでに実際にあったネット上の誹謗中傷の事件例

続いては、過去に起きたネット上の誹謗中傷に関する事件例を見ていきます。

 

女子プロレスラー木村花さんの誹謗中傷の事例

20205月、女子プロレスラーの木村花さんがテレビ番組「テラスハウス」での発言をきっかけにネット上で数多くのバッシングを受け、SNS上でも誹謗中傷の書き込みが相次ぎ、それを苦に自ら命を絶ってしまった事件です。

 

この事件はネット上での誹謗中傷の恐ろしさを世の中に知らしめるきっかけにもなりましたので、多くの方の記憶にも残っているのではないでしょうか。

 

木村花さんへの誹謗中傷事件は、大阪府の男性が書類送検され略式起訴で科料9000円の支払いが命じられました。ネット上の誹謗中傷は、結果的に人の命を奪ってしまう可能性のある重い行為ですが、刑事責任としては名誉毀損罪や侮辱罪など、殺人罪や殺人未遂罪などと比べれば重い罪とは言えませんので、罰則もかなり軽く感じられると思います。

 

ただ、木村花さんの事件では、民事でも訴訟が行われていて、SNSで誹謗中傷投稿を行っていた長野県の男性に対して賠償金129万円の支払いが命じられるという結果になっています。

 

東名高速あおり運転に関するデマ投稿の事例

神奈川県の東名高速道路で20176月に起きたあおり運転事故に関連して、事件とは無関係の会社の関与を示唆するデマ情報をインターネット上に流したとして、投稿者ら11人が名誉毀損の罪で書類送検されました。

 

そのうちの1人には、名誉毀損で罰金30万円が言い渡されています。

 

加害者はネット上でのあおり運転事故に関するやり取りに加わり、「この会社じゃないか?」となんの根拠もなく全く関係のない会社のURLを投稿したことで訴えられています。加害者としては検索した内容を投稿しただけで名誉を毀損する意図はなかったとしていますが、たとえ加害者が真実だと思っていなくても、投稿内容によって相手の社会的信用が傷つけられてしまっているのであれば、刑事上の責任を問われるケースもあるのです。

 

まとめ

SNSやネット掲示板が発達し、気軽に誰でも書き込めるような現代では、誹謗中傷をネットに書き込んでしまうハードルが非常に下がっています。そのため、軽い出来心で安易な気持ちで誹謗中傷を書き込んでしまい、トラブルになるケースが非常に多くなっています。

 

ネット上で誹謗中傷を書き込んでしまい、相手から「訴える」と言われた場合は、損害賠償請求や刑事告訴を受ける危険がありますので、できるだけ早く対処していかなければなりません。

 

また、反対にご自身がネット上での誹謗中傷の被害に遭われた場合も被害が大きくなる前に専門家に相談することが大切です。ネット上での誹謗中傷トラブルに巻き込まれてしまった場合は、ネットトラブルに強い弁護士やネット調査を専門としている探偵に相談することをお勧めします。